内科学会報告。

■2006/04/20 (木) まとめないとどんどん記憶が薄れていくので、ここらでメモを見ながら私の学会報告。

2日目、特別企画はご存知黒川清先生の世界の課題、日本の課題という講演。司会が会頭の慶応大学池田教授であることから伺えるように、今回の学会のメインイベントのようだ。いつものように元気な黒川節が炸裂したが、歴史からさかのぼるお話には食傷気味。(どこかの学会で聞いた話だ。初めて聞いたときは博識と立て板に水調に驚いたが。)総説を語らせたらピカ一の方だが、今、切迫している日本の医療への鋭い切込みを期待して聞いている耳には「遠い話」だった。私のメモには「非臨床的・観念的な話はいらない、歴史話が長すぎる〜」と書いていた。残り15分からやっと医療の現実的な問題の話へ。

都会の恵まれた環境で過ごされ、末端の地方の医療の問題をご存知ないのでは?と不安だったが、やはりしっかりご存知だった。先生は何度も医療の再編などの提言をしているそうだが、なかなか聞いてもらえないそうだ。(何もしてくれないと誤解していてごめんなさい!)

しかし、黒川御大の提言も通らないって・・・いったい誰が牛耳っているんだろう???

黒川講演で小気味良かったのは「医者がもっと発言すべき」(発言したいけど、その場がないんです〜)、「東大病院は研究に専念し、外来はやめますと宣言せよ」(学部長は微笑んできくだけと言われていた)。sつぶれることのない公的病院が率先して病院のあり方を変えていくべきという意見には大賛成だが・・・・。実現には遠い話だ。

黒川講演は格調高く、基調講演としては素晴らしいのだが、末端の臨床で危機に瀕している私には、ものたりなさの残るものだった。

次は今回の学会で最も期待するパネルディスカッション。テーマは「医療の安全を考える」。しかし、しかし・・・・その前までしていた教育講演が終わると同時にフロアから、どっと出て行く人が目立った。新しく入ってくる人は少なく会場は閑散としてしまった。こんな所でも医者側の危機感のなさが感じられ残念だった。

司会はちまたで「新入医局員が少なく崩壊が近いかも?」とささやかれているM大学の教授。パネラーは医療人権センターCOMLの辻本氏、Y大学の教授、掲示板で○功名心○と呼ばれている有名院長、全日空の現役パイロット、厚生労働省の役人の5人。すでに時間は1時間近くおしており(時間を延長してつまらない教育講演をされたY教授、K教授に時間を返してと言いたい!制限時間はきっちり守るべきなのに、つまらない講演がかえって時間オーバーとなるんですよね。)、司会者はかなりあせり気味。講演は質疑は後回しで淡々と進んだ。

最初のNPO団体の方は医療を責める講演をされるだろうと予想していたが、患者側の無責任さも理解する内容で、また口調が非常に優しく穏やかで、このような方が医療サイドと患者側との理解ある架け橋になっていただけるのではないかと期待を持った。「患者の権利とコスト意識の高まりの反面、チーム医療という姿が見えず、30%の患者が医療不信や疑心暗鬼になっている。その原因の多くは医者に対してである。」「患者が医療の主人公となるには、医療には限界があり不可能なことが多いことを受け入れるような患者の自立と成熟が必要。」「患者と医療側とのまなざしの隔たりが大きい。患者と医療とは深い溝をはさむ異文化圏であり、橋をかける努力が必要。」「病院内でも部門の壁を乗り越えて、意見を気軽に交わせる職場環境つくりが求められている。」という言葉が印象に残った。医療のNPO法人というと、理解が不十分なまま患者サイドを擁護するもの、と思い込んでいた私には、思い込みを変えるような内容だった。が、後日聞くところではこの団体にもよからぬ行動があるらしい。でも何の色眼鏡をつけずに聞いた段階では非常によい講演だった。

次は横浜市立大学の教授。以前に重大な医療ミスを複数回おこした病院で、その体験からの実践的なお話。「CVカテーテルを入れるにしても、その資格がある医者とできない医者を区別する。」「オペ場でのタイムアウト・・一斉に手を止めて、患者の安全に係る事象の確認をする。」「学会が中心になって提言し、力を発揮すべき。」無難な講演だった。

3番目の演者は以前から問題の多い先生と思っていたが、講演は思いのほか真っ当だった。「医療事故が起こった時、警察への届け出は法的理由もなく医療側からは行わない。国家的怠慢を医療従事者の職責に優先することはない。」「今の人員体制では医療事故の件数は減らないだろう。しかし、意識を高めることで重症な事故は減る可能性がある。」「医師個人の技量不足やヒエラルキーによるチーム医療の欠如が問題。」経営病院で行っている医療エラーの対策や病院の理念は素晴らしいものだ。しかし、「医療事故の多くは医師の技量不足であり、要するに精神がなっとらん。」という精神論が飛び出すところは○先生の面目躍如(もちろん皮肉)。大変は当たり前、弱音を吐くな、気持ちで乗り切れというような精神論の時代はもう終わったのを自覚されない経営者であるのが残念。この先生のようなアクティブな先生が頭を柔らかくされて、意識を変える努力をされれば、きっと医療へのプラスとなる働きかけをしてくれるだろうに・・・。噂では経営病院では循環器科医10名脱退というが、理想的な観念論についていけないだろうなと共感。

次のパイロットの方は生産性と安全性を話されましたが、かなり疲れて内容をよく覚えていない。最後にわずかに残った時間で、現状の当直体制について、パイロットの方へ「苛酷な連続勤務で安全な業務の提供ができるか?」の質問に対してできない」というきっぱりした答えは特筆したい。フロアの先生実体験に基づく発言にはフロアからも共鳴の拍手が起こったが、○院長が「人員不足や長時間労働からミスが起こるのではなく、医師の未熟さが原因だ。」と言われたのは同じ医者として悲しかった。

パネラーの人選には限界があるし、パネラーも公の場で口にできないことがあるという事を差し引いても、物足りなさが残るディスカッションだった。せっかくの機会だから、順番の早いプログラムで時間に余裕をもたせて、フロアからの意見をもっとたくさん取り上げてもらいたかったと思う。