不妊治療への危惧。

■2006/05/24 (水)
先日、産婦人科専門医以外対象の、最近の産婦人科医療がテーマの講演会を聞きに行った。
妊娠中毒症という名称はもうないという驚くような話で始まった。妊娠週独唱は、中毒物質が胎盤から出ることが原因と思われていたが、結局中毒物質が同定できず、むしろ胎盤形成過程での血管が問題で、妊娠高血圧を原因とする症候群であると昨年から学会で正式に認められたそうだ。故に塩分や水の制限はむしろ脱水を招き状態を悪化させるのだという。また肥満が問題とも思われていたが、妊娠により体重増加が5キロ以下の妊婦がかえって予後が悪く、妊娠前のBMIが大切だそうだ。私はこれまで肥満→中毒症→カロリー・塩分制限と理解してきたが、大間違いであったことがわかった。医者とはいえ、科が違うと素人同然だと自嘲。
また高度不妊治療の進歩も著しく、今では無精子症であっても、男性生殖臓器に1個でも精子が存在すれば受精の望みはあるそうだ。ICSI(顕微受精)のビデオが流されたが、卵子にブスリと針をさして殻を破り、精子を注入するという、なんだか乱暴にも思える作業に対して、会場のあちこちで驚きのため息が聞かれた。人に育つ卵子は強靭な生命力を持つのだ。
講師の先生は不安に思うこととして、Y染色体の遺伝過程で、世代を経るごとに少しづつY染色体が壊れていくことを危惧されていた。つまり本来は自然の流れで淘汰されるYに由来する不妊因子が徐々に濃くなり、人類全体としてこのような治療の進歩が本当に良いことなのか、当事者として疑問が残ると話された。
(Yの遺伝の話では、余談として、皇室の万世1系の話にも及び、一部で遺伝を正確に理解せずに議論が進んでいる風潮も心配されていた。)

先日外国で、珍しい遺伝子異常の子供が近隣地区に発生したが、どの子も高度不妊治療で精子提供を受けた子供であった。原因は精子提供者からの遺伝であるらしいと報道されたが、不妊治療の進展はこのような問題を常に孕んでいる。子供が欲しくてもできない人たちにはARTは福音だ。しかし、生まれた子供への説明の問題や無意識のうちに近親相姦が発生する可能性や、また先日裁判があったが、凍結精子の利用により死後に生まれた子供の戸籍上の扱いなど、極めてデリケートで深刻な問題が横たわっていることを忘れてはならない。では、どうすればよいかといわれると・・・今頭に浮かぶのは養子制度の活発化ぐらいしかないのだが。