神様と呼ばれて。

2004/01/27 (火) 上司の担当の糖尿病の60代の男性患者が体調不良を昨年から訴えていた。
いくつか検査はされていたが(採血・大腸ファイバー・胃カメラなど)
やはりよくならない、とたまたま私の外来を受診し入院したいと訴えた。
上司に「入院希望がありますので」と主治医をお願いしてみたが、
軽い腸炎でしょうから、なつき先生よろしく、と一任されてしまった。

検査の結果、腹部CTでは膵頭部に5−6センチの腫瘍像、
肝臓には6−7個以上のSOL、さらに大動脈周囲のリンパ節腫脹、
腹水貯留も認め、おそらく膵臓癌、末期と思われる。
一般生化学検査では肝機能・蛋白・脂質・腎機能・電解質は正常、
血算も異常なかった。
このために外来で見過ごされていたのだろうが
腫瘍マーカー膵臓関連酵素などは著増していた。

10年前からきちんと通院しているのに、
末期状態の病気が発覚するのは患者も納得がいかないのは当然だ。
まして昨年から急激に血糖コントロールが悪化していたのに
一度も腹部エコー・CTを撮ってなかったのは、
やはり反省すべき点であると思う。
(上司には言えないけどな。また上司からも何も言葉はないけど)
上司の顔を立てつつ、病状説明をするのには大変苦労した。

娘さんから「通院患者のお腹の検査はしないんですか。」と聞かれたのは
辛かった。確かにそうだ。年1回の腹部エコー(またはCT)は必須だろう。
・・が、割合にさばさばした家族で、「あの時こうしていればと
ふりかえっても仕方ない、これからの残りの人生をどう過ごすかを
大切にすることを考えていきましょう。」というムンテラを、
ともかく納得してくれたようだ。

その患者の腹水が急速に増え、尿もでにくくなってきたので
昨日、腹水排液を行った。3500CCも採れて貯めすぎを反省したが、
膨満したおなかがへこみ、皮膚の皺もでてきた。
患者からは
「久しぶりにすっきりして今日はよく眠れるかもしれない。
本当に楽になった。先生が神様に見える。」と言われた。

短い間だろうが、一時的にでも患者に楽になったと思われるのは
医者冥利につきる。
でも、これからのことを考えると辛いな〜。
今は喜んでいる患者も、いずれは私に対して
どうしてもっと楽にさせてくれないのか!
と怒りを向ける時期がくるだろう。
でもこれも医者である限り受けなくてはいけない試練
なのだろうと覚悟している。

追記
採血検査で生化学で異常がないと書いたが、
胆道系酵素(γGPT、ALP、LDH)は上昇していた。
やはりこの時点で、あれ?おかしいぞと
主治医は気付くべきであっただろう・・・。