赤い水。

いま癌性胸水炎と癌性腹膜炎の患者がいる。
二人とも多臓器転移がある末期で、もはや抗がん剤治療の適応はない。
よいQOLを得るために胸とお腹の水を定期的に抜いている。

抜けば必ずたまるので、極力抜きたくないのだが、
水の増加が激しくて、最近は週に1〜2回の水抜きをしている。
胸膜炎の患者の水は抜くたびに赤さをましていく。
今日は2200mlを抜いたが真っ赤で怖いほど。
貧血は進んでいないので見かけほどは出血していないのだろうが
赤い水は気持ちのよいものではない。
しばらく赤ワインは飲めそうにない気分。
二人の患者で合計4500mlの排液をした。
抜くことしかできない自分の治療の限界がやりきれない。
でも抜くと楽になるのだ、一時的に。

(胸の水の患者はトロッカーを入れたいところだが
入れたら最後まで入れっぱなしとなる。これによる合併症を
考えると針刺ししたほうがよい状態だと私は考えている。)

ウルバニ医師のような世界を相手にする医師には今でも憧れている。
が、今はくらぶべくもないような末端医療に携わっている私。
理想の形とは悲しいくらいほど遠いが、
地道な臨床家も必要なのだと自分を励ましながら
なんとか診療を続けている。