稀な事故で全ての手技に制約をつけるの?

ますます医療が萎縮していくことが危惧されるような記事をみつけた。

毎日新聞 2004年11月17日 3時00分
東京女子医大:点滴ミスで患者死亡 2千万円で遺族と示談
東京女子医大病院で昨年9月、入院中の埼玉県上福岡市
女性(当時63歳)に点滴をする際、医師が静脈に刺すべき点滴針を
誤って動脈に挿入し、死亡させていたことが16日、分かった。
同病院は過失を認め遺族に謝罪。今月、2000万円を支払うことで
示談が成立した。
 関係者によると、女性は食道がんで入院。点滴で栄養補給していた。
昨年9月24日午後、医師が首の血管に点滴針を挿入したところ、
大量の血液が逆流したため、誤って動脈に挿入したことに気づいたという。
医師はすぐに針を抜き止血処置をしたが、女性はすでに窒息状態だった
という。女性は約3時間後に出血が原因で死亡した。
同病院は翌25日、医療事故として同署に届け出た。

 事故を受け同病院は栄養管理用の点滴針の挿入を首ではなく、
ひじの静脈への挿入のみとし、ガイドラインを作成し院内に周知した。】

誤って動脈を穿刺するのは珍しいことではない。
でもこれで死亡するのは極めて稀だ。
普通はしっかり止血することで事無きを得るはず。
担癌患者であることが処置を難しくさせたのだろうか。

ぎょっとするのは女子医大が、首からのアプローチを
禁止してしまったことだ。
ひじへの静脈挿入?これってカットダウンが必要?
カットダウンは古い手技で、通常のルートである首・鎖骨下・
大腿からの挿入が無理なときに究極の選択として
行うものだと思っていたが・・・。
私はこれまでで1例だけ、通常ルートが確保できず
外科にカットダウンを頼んだことがある。
(カットダウンは私にはできない手技。)

これからのIVH(今はCVCと呼ぶべき、
でも習慣でIVHとよんでしまう)は大腿静脈しか道はなくなるのだろうか。
歩ける人には可哀相なルートになってしまう。

そういえば、すでにかなり前から、私の母校の大学病院では
全てのIVH挿入は放射線科依頼となり病棟でおこなうことは禁止されている。
このことを初めて聞いたときには、いったいIVHという
基本的・不可欠な手技をどこで学ぶのかと訝しく思ったものだ。
医療ミスと叩かれ、病院がどんどん保守的になり、
医療の幅がますます狭められていくような気がしてならない。
困ったことだ。